SHUWAN Columns

日本酒ペアリングの第一人者 千葉麻里絵氏が語る酒碗の魅力

酒碗は人とお酒の距離を近づけてくれる器



酒碗との出会いは、広島県酒造組合のテイスティング審査員として知り合った(酒碗考案者の)庄島さんから開業直前の天酒堂に招待いただいたことです。酒碗でいろいろな日本酒を試飲させてもらいました。


特に酒碗で新政を飲んだ時、すごく衝撃を受けました。新政は10年以上ほぼ毎日テイスティングしていますが、長年親しんできたお酒の違う側面を突然見せられたようで、良い意味で驚きました。香りと味だけではなく、見た目や手触りなど、五感全てでお酒を感じるという、今までにない体験ができたんです。


ワイングラスやうすはり(ガラス製酒器)も無機質な良さがありますが、お酒の本質を感じにくい面があります。酒碗はお酒の隠れた魅力を引き出し、人との距離を近づけてくれる器だと感じ、お店でも積極的に取り入れることにしました。


お酒の個性を引き立てる酒碗の使い分け



スタンダードであるSHUWANは、ワイングラスと利き猪口の良いとこどりのような酒器だと感じています。お酒の個性を邪魔しないので、どのタイプの日本酒にも合います。例えば、最近人気のフレッシュでガス感のあるもの、香りがフルーティーなものから、口当たりの重いものまで幅広く対応できます。特にテイスティングの際には、すごく重宝していますね。


一点ものの天酒碗は、形状や素材がさまざまなので、その日本酒の隠れた魅力を引き出す力が大きいです。選ぶ際には、碗を手にした時の質感とお酒を口にした時の感覚が調和するようにしています。


その一方で、意図的に対比をつくることもあります。例えば、口当たりの良いお酒に土味が強くザラザラとした感触の器を合わせて、新しい体験を生み出すといったイメージです。


同じ作り手でも、一つひとつ全く違う表情を見せるのが天酒碗の良さです。お酒を注いだ時の見た目も魅力的で、焼き締めの器を使うとガラスに映ったような美しさが、漆の器を使うと湖のような静けさが感じられます。


酒碗がもたらす日本酒の新しい楽しみ



酒碗は小ぶりな抹茶碗くらいの大きさです。このサイズ感の器を初めて見るお客様が多く、興味を持ってくださいます。お客様がじっくりとお酒を味わう表情がとても印象的で、「使っていて落ち着く」という声をたくさんいただいています。以前はうすはりで提供していたので、常連さんにとっても新しい体験になるようです。「どこで買えるんですか」と聞かれることも多いですね。


個人の方なら、まずはスタンダードのSHUWANを1つ買うことをおすすめします。どのお酒にも合わせやすく、洗いやすいので、使い勝手が非常に良いです。


飲食店ですと、日本酒にこだわりがあってテイスティングをするお店に、ぜひ使っていただきたいです。


一点ものの天酒碗は、特に寿司屋におすすめです。ワイングラスで日本酒を提供するお店が多いですが、個人的には違和感があります。手で食べるお寿司は感触が命なのに、お酒を飲む度に口に硬いガラスがあたるのはミスマッチだと思うんです。天酒碗のような手触りを大事にした器を使えば、寿司も日本酒も更に美味しく味わえると思います。


日本酒と共に、日本文化の素晴らしさを世界へ



2024年に、日本酒をはじめとする日本の「伝統的酒造り」がユネスコの無形文化遺産に登録されました。日本酒が世界的に認められた今だからこそ、日本のクラフト感を持った器がセットで広がってほしいです。


海外では日本酒をワイングラスで提供する場合が多いですが、SHUWANが主流になれば、日本酒の本当の楽しみ方をすぐに理解してもらえると思うんです。日本酒だけでなく、日本の器文化も一緒に広がることで、日本文化全体の素晴らしさが世界に伝わるはずです


今後は、空港の免税店や日本酒専門店、浅草など外国人観光客が多い場所で、SHUWANが買えるようになるのも期待しています。